大学で絵画を学んでいた手塚愛子は、絵画構造を解明したいという思いを出発点に、織物から糸を引き抜き、刺繍するスタイルを確立した。手塚の作品に対峙する者は、美しい模様を描く織物の、普段は見ることのない内側や裏側を意識させられることになる。織物の構造面だけではない。紡いだ人々の仕事や織物が経てきた歴史もまた手塚の手によって引き出される。布が内包する時間を読み解き、過去・現在・未来を再解釈していくための行為と言えようか。
手塚が活動の場を海外に移して以降、日本で起きた大きな出来事とそれに付随し浮上した問題は、現在も進行中である。明るみに出た社会の様々な歪み、私たちの身体の内奥で起きている不可視の変化、なかなか身動きの取れないもどかしさ。手塚は、新たな展開を見せる新作において、布を解き裏側を見せる自身の方法に現在の思いを重ねながら、私たちに向けて問いを突きつける。
1976年東京都生まれ。武蔵野美術大学大学院造形研究科油絵コース修了、京都市立芸術大学大学院美術研究科博士後期課程 油画領域修了。2010年五島文化記念財団新人賞で渡英、2011年文化庁新進芸術家海外研修制度派遣研修員。2012-13年クンストラーハウス・ベタニエン(ドイツ・ベルリン)在籍。
近年の主な個展に、2011年「プリズム・ラグ - 手塚愛子の糸、モネとシニャックの色」(アサヒビール大山崎山荘美術館、京都)、2013年「Ghost – Suspended Organs」 (クンストラーハウス・ベタニエン、ベルリン、ドイツ)、「Rewoven」(Galerie Michael Janssen、ベルリン、ドイツ)がある。近年の主なグループ展に、2008年「MOTアニュアル2008「解きほぐすとき」」(東京都現代美術館、東京)、「Tangent」(国際芸術センター青森)、2009年「Stitch by Stitch」(東京都庭園美術館、東京)、2010年「祝祭と祈りのテキスタイル」(熊本市現代美術館、熊本)、2013年「The Empire of Folds」(チューリヒ・造形美術館、スイス)、「To Open Eyes. Art and Textiles from Bauhaus to Today」(クンストハレ・ビーレフェルト、ドイツ)がある。
TEZUKA Aiko
1976 Born in Tokyo, Japan
1999 Graduated in Painting from Musashino Art University, Tokyo, Japan
2001 Completed Master's Degree in Painting at Musashino Art University, Tokyo, Japan
2005 Completed Ph.D in Painting at the Art Research Department of Kyoto City University of Arts, Kyoto, Japan